Kazuaki Koseki
小関 一成
Statement / Profile
雁が音のほとり -Sounds of Life-
水田の稲穂を刈り終える頃、湿原には渡り鳥たちの声が響き渡る。初めてこの地を訪れた朝、けたたましいほどの鳴き声と、十万羽を超えるマガンが一斉に飛び立つ羽ばたきの音に包まれた。大地が震えるようなその響きに包まれながら、私は“命の濃度”と、その揺るぎない力強さに圧倒された。
「生きている」ということの圧倒的な力-
この“命の音”を、写真という静かな器に映し取ることはできないだろうか-
その問いが、このシリーズの始まりとなった。
耳を澄ませば、無数の生き物の声、植物の呼吸、水と大気の往復運動が重なり合い、人の生活の狭間で、自然は絶えずその存在を響かせている。
かつて日本の各地に広がっていた原風景が、この湿原には今も息づいている。江戸の絵師たちもまた、月夜を飛ぶ雁の群れを眺め、同じように心を震わせたのだろうか-そんな思いがよぎった。
宮城県北部、伊豆沼・蕪栗沼をはじめとする湿地は、ラムサール条約に登録された野鳥の重要な越冬地である。だが、人が湿地を「不用の地」とみなしてきた歴史の中で、日本の湿地の6割がわずか百年余りで姿を消した。皮肉にも、飛来数の増加は湿地の豊かさの証であると同時に、この生態系が抱える未来の歪みを静かに示している。彼らが日々落としてゆく膨大な痕跡が、いつか湿地の形そのものを変えてしまうかもしれないのだ。
私は、湿地に満ちる“音”や気配を、写真という静かな平面へと移し替える方法を探してきた。観察者として、この場に満ちる生命の“気配”を読み取ることが、私の撮影行為の中心にある。視覚で音を聴くように、瞬間の動きと気配が交差するそのひととき、写真はかすかな“声”を帯び始める。
故郷でもある日本の湿地で、多くの不自由さを抱えながらも、国境を持たない彼らは今日も自由に空を渡っていく。地球環境のバランスを保つ湿地が育む生物多様性-その生きる力に、私はいつも“未来への希望”を感じている。
還ることによって、また始まる。
10年後の連作《土に還る》へ-
静かに、物語は続いていきます。
小関 一成 Kazuaki Koseki
1977年、山形県生まれ。写真館の長男として幼少期より写真に親しみ、現在はその仕事を継ぎながら、東北の自然を題材に創作を続けている。山や森、川と向き合い、五感を研ぎ澄ませながら撮影を重ねる中で、自然と人との関係を思想的に探る独自の作品世界を築く。代表作「螢火-Summer Fairies-」をはじめ、多くの作品を山形と東北の風土に捧げている。
受賞歴
Wildlife Photographer of the Year 2021
Photolucida Critical Mass Top 50 2023/2024
LensCulture Critics’ Choice 2024 Top 10(Megan Wright[Saatchi Art]選出/Paolo Woods[Cortona On the Move]選出/2021 Chris Pichler[Nazraeli Press]選出)
Sony World Photography Awards 2025 Professional Shortlist
Earth Photo 2025 Shortlist
BigPicture Natural World Photography Competition 2021/2023/2024
Nature’s Best Photography International Photo Awards 他
主な展覧会・出版
個展:「霧幻の水森 -Lake Shirakawa-」(2022年、富士フイルムフォトサロン 東京・大阪)。作品は、世界経済フォーラム(スイス・ダボス)、ロンドン自然史博物館(英国)、カリフォルニア科学アカデミー(米国)などで展示。ナショナルジオグラフィック誌、Harvard Business Review、Aesthetica Magazine等に掲載。作品集:「霧幻の水森」(2022 年、冬青社刊)